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ZEB座談会「環境にやさしい建築物の紹介」(中編)

ZEB座談会「環境にやさしい建築物の紹介」
~都内公共施設初のNearly ZEB認証建築物エコルとごし~
(中編)

ZEB座談会「環境にやさしい建築物の紹介」 ~都内公共施設初のNearly ZEB認証建築エコルとごし~

エコルとごしは、都内公共建築物で初めて「Nearly ZEB」認証を取得した建築物です。品川区としても大きなチャレンジとなった本施設の設置に至るまでの経緯、そしてこれからの展望について、品川区および建築設計者・展示設計者・運営者による座談会形式でお伝えします。

(前編はこちら)

エコルとごしのZEBに関する設備の特徴

植山:  ZEBについては、省エネや創エネの組み合わせにより達成されることがわかりました。このエコルとごしでも、様々な設備が導入されていると聞いています。何か特徴的な設備があればお願いします。

小林:  今まで、内覧会等をお受けし、ZEBに関する様々なご説明をしてきましたが、比較的関心が最も高い設備は、地中熱を利用した空調設備に関することでした。地中何mの深さまで掘っているのか、地中の熱は何℃なのかなど、様々な質問を受けたところです。
また、太陽光発電についても、エコルとごしは区有建築物の中でも最も設置規模が大きいため、関心が高いものと感じています。例えば、一日あたりの発電量は、一般的な家庭11世帯分に相当しますが、これらをご説明すると、どよめきが発せられることもあります。また太陽光で発電した電気を蓄える「蓄電池」もその設備の大きさに圧倒されます。そのほかにも、先ほど白井さんからお話があった通り、換気窓や深い庇など、見所が満載です。

区としては、来館された方が、これらの特徴的な様々な設備を実際に見て、感じていただき、皆さんの今後の施設づくりに是非生かしていただきたいと考えております。これ以外にも、設計者さんから見て、施設に来た際はぜひ見ていただきたいという一押しの設備があればご紹介いただきたいのですが、いかがでしょうか。

白井:  小林課長がお話されたところが、私も見ていただきたい点です。地中熱利用は、年間を通じて安定した地中の熱を空調設備の熱源として利用することで快適な室内環境を作るものです。エコルとごしについては、事前の調査で、地下の浅いところに地下水があることがわかっていましたので、熱交換効率の良い地下水を空調設備の熱源として使うこととしました。緑多く自然が豊かな戸越公園の中で、地下水も活用しているというのは大きな特徴であり、PRになると思っていました。ただ、地面の中の仕組みなので、直に見ることが出来ないのが少し残念です。

また、屋上に平置きしている太陽光発電パネルが屋根面の大変多くを占めており、コンパクトな建物全体との割合を考えるとこれだけの数量を敷き詰めているのは珍しいと思います。同じく屋上に設置している蓄電池の大きさや量感からも、蓄電量の大きさを実感できると思うので、ぜひ見ていただきたいと思っています。

エコルとごし屋上の太陽光発電パネル。区有施設で最大規模を誇る(イベント時のみ公開)。

また、ZEBの機器類というのは、システム自体が隠れてしまうことが多いのです。人の目に見えない部分に仕込まれて働くことが多いため、「これがZEBの工夫です」と見ていただくのが難しい点があります。
しかし、先ほどお話しした「パッシブ技術」に該当するものとして、“ZEBを手助けしている設備”は見ていただきやすいです。大きな庇や壁面緑化、雨水を貯める水槽、大階段に風を通し、自然換気を促す自動開閉窓など、これらはZEBの消費エネルギー計算には直接入らないものですが、ZEBの実現に必要な設備として、ぜひエコルとごしで直接見ていただきたいと思っています。

エコルとごし外観(道路側より)。壁面緑化には在来種の「キズタ」を使用。日々成長している。

そもそもZEBは知られているのか

植山:  このZEBに向けた様々な設備は、太陽光発電や照明のLEDなど、皆さんの身近な設備も大きな役割を担っています。ところで、ZEBの言葉そのものの認知度については、どのように捉えているでしょうか。

河内:  区では、開設前から施設PRのため、指定管理者さんと一緒になり、施設の周知に努めてきたところです。施設そのものに対する期待の声や関心は、有難いことに開設前から非常に大きかったものの、ZEBそのものについては、まだ少し難しいと感じられていると実感しています。

植山:  私たちもこの施設に関わらせていただいてから、ZEBについては皆さんにご教示いただく中で身近な言葉になってきましたが、もっと広まっていったらいいなと感じています。最近では企業のCMでも聞くようになってきたZEBですが、エコルとごしに来てもらって「あ、CMで見たやつだ」と思い出してもらえるきっかけになることも効果的だと思います。

河内課長からもお話しいただいたイベントでのPR時、区民の方からは、こんな設備があるんだという驚きの声や、区がハード面でこれだけの環境配慮施設を作ってくれるのであれば、私も出来ることから頑張りたいというご意見もあり、ご自身が住む区の誇りにも繋がっていると感じました。そうしたことから、品川区のZEBの普及や取り組みは非常に良いものだと思っています。

2021年秋、大井町駅前で開催された「大井どんたくまつり・秋」におけるエコルとごしPRブース。

小林:  私も、この施設の内部検討を開始した平成29年度、建築書籍や環境省のHPなど、様々調べていく中で、ZEBを知ったところです。私は建築技術職ですが、技術職ですら当時はそのような手探りの状況でした。一方で、企画部門や財政部門は事務職であり、さらに聞きなれない言葉であることから、説明の際など、大変苦労しました。しかし、まずは関心を持ってもらうことが大切です。何度か説明を繰り返すことにより、徐々に認知度が上がり理解が深まっていくことを感じました。やはり、繰り返すことが大事だと思っているところです。

先般、環境省の方とお話しする機会がありましたが、国の認識としても、環境施策を担っている方や建築分野の方には一定程度ZEBの理解が進んできているものの、一般の方への浸透はまだまだ厳しいというものでした。区は住民にとって、基礎自治体であり、身近な存在です。こうした一般の方への普及を、施設を通じて進めていきたいと思っています。

白井:  私がZEBを知ったのはかなり前のことです。建設業界の技術雑誌で知りました。技術研究所を持つ大手総合建設業の複数社がZEBの技術を語っている内容で、その時の私は「技術研究所や新しい技術を開発できる能力がないと、できない技術なのだ」と思っていました。
しかし、令和元年の5月、国が環境にかかわる法律を改正した前後から、一気にZEBのニーズが高まりました。そうした中、当社もZEBの認証につながる設計の機会に恵まれました。その時「新しい技術の研究成果を使わなくても、今ある世の中の技術を組み合わせればできる」と、初めての設計体験の中で実感しました。今は、この体験を活かし設計者として「今ある世の中の技術でZEBの設計は出来る」ということを含め、普及に努めたいと考えています。

しかし、民間企業へのZEB認知度でいうと、一般には今も「ZEBはつくるのにお金がかかるから公共施設で適用するもの」と認識されていることが多いと感じています。イニシャル・ランニングコストを含め、掛かるお金が不透明であるという点が、民間の中でまだまだ浸透していかない理由かと思っています。ただし、ここ1~2年の間に、カーボンニュートラルへの貢献を掲げる企業の方からはチャレンジしたいという声が増えてきていると感じています。

エコルとごしでZEBを紹介する取り組み

植山:  エコルとごしの指定管理者として、ZEBの普及・紹介をする工夫としては、夏ごろからZEBのガイドツアーを行う予定です。ZEBという言葉を知ってもらうこと、また、エコルとごしが「Nearly ZEB」の認証につながった設計上の工夫を知ってもらうことを目的としています。
ZEBなど専門的な分野は、人によって知りたい情報の深度が異なると思うので、そうしたニーズを捉えて運営者としてきめ細やかに工夫して紹介をしていきたいと考えています。
具体的には、都度アンケート等で参加者の声を把握することや、運営者目線の一方通行の事業ではなく、情報の出し方・伝え方に配慮していきます。そのため、ガイドツアーのターゲット層は、ZEBに関する設備を紹介する展示解説を一般の大人向けの文章として、展示解説に書ききれない内容や、お子さん向けの易しい文章は、別途ガイドを作っています。ご高齢の方や自分のペースでゆっくり回りたい方には、ガイドツアーの参加を強制するものではなく、自由に回っていただけるよう対応するなど、ターゲットやニーズに配慮した紹介を行っていきます。

小林:  区民の方への周知は、実感しやすい効果も併せてお示しすることがとても大事ですよね。機能や設備の紹介だけではなく、白井さんからもお話があったように、お金の視点などは、生活にも直結しやすいため、「おっ、すごいね」と、より関心が高まると思います。こうした内容までご紹介できたらいいですね。

植山:  環境に配慮すると快適性を失ってしまうイメージのところを、エコルとごしに来た利用者の方に、実際に快適性を提供しながら「こんなに快適なのにエネルギー削減も両立できているのだ」と体感してもらいたいですね。そして小林課長が仰ったように、これだけ節約している等の情報の見える化がないと、区民の方には効果が響きづらいと思っています。

館内にはZEBに関する解説パネルのほか、リアルタイムの発電量や雨水の貯水量を知ることができる「エコ見える化モニター」が設置されている(写真左)。

河内:  エネルギーの削減もそうですが、エコルとごしの外皮性能についてもぜひ紹介していただきたいですね。保温効果の高い、魔法瓶のような性能です。
そして、先ほど白井さんが仰っていた、今ある技術の組み合わせというのはとても素晴らしいお話ですね。技術の組み合わせで91%が実現したということ、皆さんの身の周りでも組み合わせられるものがあるのではないかというメッセージを伝えられたらと思います。

白井:  その通りです。一般の方からはどうしても、特殊な技術でZEBを達成したと思われてしまいます。だからつくるのにお金が掛かるのだろうと。「今売っている技術を買って組み合わせただけです」という話がなかなか伝わらない。ZEBの費用対効果を含めたPRが必要であり、どう伝えるかが課題です。

小林:  そうですね、様々な説明の際などでも「特殊技術を駆使したのでしょう?」と聞かれることが多かったですね。そうではなく、今世の中にある技術の組み合わせでZEBが成り立っていることを繰り返し説明した経験を思い出しました。

河内:  ZEBの紹介について、事業以外にも展示物でお示しすることとしていますが、そのあたりもちょっと教えていただけますか。

田中:  当社の立ち位置は、ハード面というよりは主にソフト面となりますが、こういったZEB建築などのハード面とソフト面を一体的に繋ぎ、どう来館者にお楽しみいただくかが大切だと感じています。皆さんに一つでも知ってもらう・気付いてもらう・感じてもらうということを大きな目標に掲げて、展示という立場で関わらせていただきました。ある種「翻訳者」のような役割を担い、今回で言えば環境やZEB建築という大きなテーマがあることに対して、いかにわかりやすく伝えていくか、という仕事です。

株式会社丹青社 デザインセンター プリンシパルクリエイティブディレクター 田中 利岳

「ZEB」というと、ぱっと見ると一般の方にはわかりづらいテーマかと思います。そうした中で、まずは川上の在り方として、施設に足を運んでいただけるよう、品川区内の戸越公園のある一角に建物として存在しているという情報を伝えます。そして、建物の各所にZEBを実現する設備がある、ということがわかりやすく伝わるよう、設備付近の解説板面に、シンプルに情報を表現していく。そうすることで、まずは気付きにつながり、知ってもらい、施設内を巡るきっかけづくりになるものと感じています。

先ほど白井さんから、地中熱の深さなど設備では見えづらい部分があるとお話がありましたが、解説文の他に写真やイラストも織り交ぜ、どのように見せていくかも大切です。見えないものを如何に想像してもらうかを考えることが、展示の会社という立場で、ZEB建築に対する関わり方の1つだと思っています。

館内各所で、ZEB設備に関する解説パネルを用意している。

エコルとごしの運営開始後、ZEBの達成見込みは

植山:  この施設は、設計時において基準となる施設のエネルギー量の91%削減が見込まれており、都内施設でもトップクラスの削減量ということです。これ自体もすごいのですが、あくまで設計値でのお話だと思っています。達成されると思うのですが、まだ半信半疑な部分があるのも事実です。実際の手ごたえはどうなのでしょうか?

白井:  エネルギー削減率91%を達成できる自信はあります。この91%という設計段階の削減率は、設備機器を使用しない期間は考えず、通年でずっと動かしている状態を想定して計算しています。先ほどお話しした、年間の中で春や秋などの中間期、空調などを使わなくていい期間を入れていないため、実際の運用後の数値の方が良くなると思われます。
また、設計時に削減量の数値ばかりを追いかけて、無理な省エネビルを設計しないよう心がけています。なぜなら、無理をすると快適性やウェルネスを失ってしまうからです。我慢をしない、無理をしないZEBを目指してきたからこそ、消費エネルギーの削減目標の達成は可能であると思っています。

植山:  91%と聞くと、我々はすごいなと率直に感じるのですが、一般の方にはどこまで響くものなのでしょうか。

白井:  当社が設計し、ZEBの認証を取得した建築物で、運用してから1年以上経過して運用実績が算出できている施設があります。既存建物の建て替えプロジェクトでしたが、建て替え前の消費エネルギーと比較すると、延床面積が倍近くになったにも関わらず、電気料金に換算すると、従前の4分の1ほど減らすことができたのです。単位床面積当たりの新旧建物比較では、約半分になります。一般の方には、お金の単位になって初めて、わかりやくその効果を伝えることができるものと感じています。

小林:  エネルギー削減量をお示しするのも大切ですが、併せて生活と関わりの深い身近なものに置き換えると、効果がさらに伝えやすいですね。

(後編に続く)

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聞き手

【運営者】

アクティオ株式会社 東日本営業部長
植山 貴司

話し手

【建築設計者】

株式会社松田平田設計 横浜事務所
常務執行役員・横浜事務所長
白井 達雄

【展示設計者】

株式会社丹青社 デザインセンター
プリンシパルクリエイティブディレクター
田中 利岳

【品川区】

品川区企画部施設整備課長
小林 剛

【品川区】

品川区都市環境部環境課長
河内 崇