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ZEB座談会「環境にやさしい建築物の紹介」(前編)

ZEB座談会「環境にやさしい建築物の紹介」
~都内公共施設初のNearly ZEB認証建築物エコルとごし~
前編

ZEB座談会「環境にやさしい建築物の紹介」 ~都内公共施設初のNearly ZEB認証建築エコルとごし~

エコルとごしは、都内公共建築物で初めて「Nearly ZEB」認証を取得した建築物です。品川区としても大きなチャレンジとなった本施設の設置に至るまでの経緯、そしてこれからの展望について、品川区および建築設計者・展示設計者・運営者による座談会形式でお伝えします。

聞き手

【運営者】

アクティオ株式会社 東日本営業部長
植山 貴司

昭和45年12月生まれ。平成17年3月、アクティオ株式会社に入社。平成17年3月、財団法人2005年日本国際博覧会協会(愛・地球博)に出向。平成18年1月より、主に指定管理事業に携わる。令和元年7月より現職。

話し手

【建築設計者】

株式会社松田平田設計 横浜事務所
常務執行役員・横浜事務所長
白井 達雄

昭和35年5月生まれ。昭和60年4月、株式会社松田平田坂本設計事務所(現 松田平田設計)に入社。昭和61年6月、横浜支所(現 横浜事務所)建築設計部に配属。平成13年9月、同設計部長。平成19年9月より現職。

【展示設計者】

株式会社丹青社 デザインセンター
プリンシパルクリエイティブディレクター
田中 利岳

昭和54年7月生まれ。平成17年4月、株式会社丹青社に入社。入社後、ミラノサローネの出品/展示を経験。現在ミュージアムを中心に公共空間(本環境施設、防災施設、子ども施設、震災施設等)全般のディレクション・デザインに携わる。令和2年2月より現職。

【品川区】

品川区企画部施設整備課長
小林 剛

昭和50年12月生まれ。大学、大学院では建築学を学び、平成12年4月、大手ゼネコンに入社。10年間、工事管理等を経験。平成22年4月、品川区入区。施設整備課、都市開発課を経て平成29年4月、都市環境部環境課長。令和2年4月より現職。

【品川区】

品川区都市環境部環境課長
河内 崇

昭和39年5月生まれ。平成2年4月入区。営繕課、環境課、経理課、児童センター館長を経験。その後、東京23区清掃一組経営改革担当課長、同契約管財課長、区用地担当課長、協働・国際担当課長、文化振興事業団文化振興課長を経て、令和3年4月より現職。

エコルとごしの建設に至るまで

植山:  それでははじめに、エコルとごしの建設に至る経緯について、質問をさせてください。
平成30年から本格的な検討を始めたエコルとごしですが、なぜ施設設置に至ったのか、区としての考えを教えてください。

河内:  区では、環境施策の基本方針を定めた「品川区環境基本計画」を平成30年3月に策定し、重点取り組み事項として学びと体験の機会の充実を掲げたところです。本施設は、この重点取り組みを具現化するものとし、環境教育・コミュニケーションの充実や、環境保全について日常的に実践する人を育て、次代につなぐ環境都市の実現を目指すため、環境を体感して学べる施設を整備するものです。この計画を策定する中、課題として抽出されたものは大きく2点です。

1点目は、環境保全の取り組みの、若い世代への広がりについてです。学校教育の中では様々な形で環境学習は行われているものの、その後の成長過程の中で、若い世代への環境保全活動がなかなか進んでいない状況です。若い世代の関心を高めるため、今まで様々な啓発を行ってきたところではあるのですが、なかなか広がりに限界があると認識していました。

品川区都市環境部環境課長 河内 崇

また2点目として、環境に関する大きな課題は認識しているものの、身近に、自分の事のように捉えられない、など漠然としてしまう感を持たれています。このような課題の解決に向け、このエコルとごしでは展示機能、また建物も環境に配慮した施設とするなど、様々な切り口で環境について楽しみながら理解を深め、環境保全活動の推進につながるような施設の建設に至ったところです。

エコルとごし外観(公園側より)。自然豊かな戸越公園内に位置しており、環境学習を身近に感じられる。

植山:  環境保全の取り組みを若い世代につなげるということも、エコルとごしの特徴の一つだと思いました。施設のターゲットである「未来をつくる子どもたち」と「環境」というキーワードをどのように結び付けていくか、ソフト面の内容に関しては、運営が開始した現在も様々な検討を進めています。これまで環境保全というとどうしても苦労や我慢を強いるというイメージがありましたが、皆さんが出来ることを楽しみながら取り組むことができる施設となるよう、運営者としてもしっかり肝に銘じて、取り組んでいきたいと考えています。

アクティオ株式会社 東日本営業部長 植山 貴司

品川区立小学校の児童たちによる社会科見学の様子

エコルとごしが目指したZEB認証

植山:  全国を見渡すと、様々な自治体がこのような施設を整備されています。今のお話だけでも大変期待が持てる施設であると感じています。その中でも、今お話のあった建物自体の環境配慮、これはすでに新聞等で『都内公共建築物初の「Nearly ZEB」認証取得』と、大きく取り上げられています。このZEBについて、わかりやすく説明していただき、またなぜそれを区が目指したのか、改めて教えていただけないでしょうか。

小林:  はじめに「ZEB」、正式には「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」といいます。快適な室内環境を実現しながら、建築物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建築物のことで、簡単に申しますと「室内環境にも地球環境に最大限配慮した建築物」という言葉が、一番わかりやすい表現かと思います。

ZEBには4つのランクがあり、本施設につきましては上から2番目のランク、「Nearly ZEB」の認証を取得しました。省エネによって使うエネルギーを減らし、太陽光発電など、創エネによって使う分のエネルギーをつくることで、エコルとごしでは、基準となるエネルギー使用量から、計算上は91%の削減が達成しています。ちなみに一番上のランクが「ZEB」といいますが、この一番上のランクと、今回エコルとごしで認証取得した「Nearly ZEB」、この2つに当てはまる建築物は、令和4年4月現在、都内でまだ7施設しかありません。ですので、エコルとごしは、都内にある建築物の中でトップクラスのエネルギー削減量を誇ります。

品川区企画部施設整備課長 小林 剛

ZEBを目指した目的としては大きく3点あります。

1点目は、「91%削減」など、直感的にわかりやすい指標として、様々な方にお示し出来る点です。区の公共施設では、太陽光発電設備の設置や照明器具のLED化など、環境に配慮した様々な設備を取り入れていますが、その効果が伝わりづらいという課題があります。そのような中、ZEBは建築物全体でエネルギー削減量を数字としてお示しすることができます。せっかく地球環境に良いことを行っているのですから、効果をわかりやすく示したいという強い思いから目指したものです。

2点目は、基礎自治体としての責務をしっかり果たさなければならないという思いがあるという点です。エコルとごしは、平成29年度より施設整備にかかる内部検討を開始し、その後事業決定、平成30年度からハード面、ソフト面それぞれの本格的な検討が開始されたところです。国もそのころ、ZEBの推進が本格化した時期でした。建築物を使用していく上では、エネルギーの活用は不可欠です。また、建築物は今後50年60年と長く使用されることとなり、そのエネルギー量の累計は非常に大きなものになります。ZEBを目指し、少しでもエネルギーを削減して建築物を使用していくことは、脱炭素社会の実現に向け、有効な手段です。品川区としても、国の動向に賛同した形です。

エコルとごしの「Nearly ZEB」認証パネル

最後に3点目は、ZEBを通じた新たな環境啓発を進めるためです。ZEBは、先ほどお話しした通り、室内の快適性とエネルギー削減を両立させることが大きな特徴です。従来、環境保全に向けた行動という話となると、室内の設定温度の制約など、生活スタイルの変化を強制的に変えられるような我慢型の取り組みと思われてしまいがちで、取り組みの必要性は感じているものの行動に結びつかない、という課題があると認識しています。エコルとごしでのZEBを通じて、環境保全の行動と快適性とを両立するということ、我慢しなくても環境にやさしい取り組みができることを、施設を通じて多くの方に知っていただきたいという思いがあります。

とはいっても、この快適性についてですが、先日も「Nearly ZEB」認証を取得した建築物の見学会に参加し、所有者の方からご意見等をいただきましたが、本当にそうなのかなぁと、特にこれから暑い夏場を迎える中、いまだ半信半疑な気持ちは残っています。松田平田設計さんの今までの設計事例などから、この半信半疑な気持ちを変えられるようなことがあったら、ぜひ改めて教えてもらいたいのですが、いかがでしょうか。

白井:  ZEBという名称は近年よく耳にするようになりました。ZEB化する技術の普及もそれほど長い歴史があるものではないと認識しています。そのため、当社でも設計する建物ごとに独自の工夫を凝らしてZEBを達成しています。当社の設計実績であるZEBの建築物では、運用を開始しているところもありますので、今でも室内環境の調査とそこに働かれる方々にアンケートを取りながらZEBとその快適性について調べ、次に活かすためのデータを集めている状況です。

以前に、大手総合建設業者の実証・実験的施設をいくつか見学させて頂く機会を得ましたが、その施設を利用されるのは、実証・実験に携われる特定の方々なので、快適性を担保するための協力や工夫等もあるように感じました。今回のエコルとごしは公共施設であり、不特定多数の方が利用されることから、特に省エネと快適性の両立を実現するために慎重になっています。そのため、今回のエコルとごしについては、大学の先生にもアドバイスを受けながら設計を行ってきました。快適性や居住者の健康に関わるウェルネスと省エネの両方の研究をされている方で、その知見をお借りしました。当社の実績となるZEB建築の1年間以上の運用の調査と室内の快適性に関する調査の実例を活かしながら、小林課長の半信半疑な気持ちを変えること出来たらと思います。

株式会社松田平田設計 横浜事務所 常務執行役員・横浜事務所長
白井 達雄

ところで、エコルとごしについては、今回の為に新しいシステムや設備を開発して採用しているわけではなく、従来から世の中にあるシステムや設備を採用しながら、それらを組み合わせることでZEBにしています。長く使われてきた実績のある設備を組み合わせてZEBを実現しているということが、大きなポイントです。 エコルとごしをZEBにするために、聞きなれない言葉かもしれませんが、「パッシブ」と「アクティブ」という2つの技術を使っています。ゼロ・エネルギー・ビルと聞くと、つい建物という閉ざされた箱の中で、省エネ効率の高い照明・空調などの機器が一生懸命にエネルギーを消費しない様に動き、働いているような建築に思われがちです。このような技術を「アクティブ技術」と呼びますが、実は自然光や風などを積極的に採り入れて、上手く制御する「パッシブ技術」も使っているのです。

具体的には、エコルとごしでは大きな庇で夏の強い日差しを遮り、大階段に風を通す仕組みを考えて建物内の自然換気を促すなど工夫しています。“中間期”と呼ばれる春や秋には自然の光や風を取り入れることで、設備機器を使わなくてもいい時期をつくりだし、年間全体でのエネルギー消費を削減しています。決して、外部の自然から遮断することで無理矢理に省エネな室内を作りだしているのではないのです。この点が、快適性がある省エネに繋がるポイントとなっています。

エコルとごし1階のコミュニティラウンジの様子。ガラス張りの大きな窓から光が差し込み、公園と一体感を感じられる居心地の良い空間となっている。

(中編に続く)

続きを読む(中編)>