このブラウザは動作対象外となる予定です。
引き続きエコルとごしのサイトをご利用いただくには、
サポートされているブラウザに切り替えてください。

※ダウンロードやインストール方法などにつきましては、
ブラウザの提供元へお問合せください。

ZEB座談会「環境にやさしい建築物の紹介」(後編)

ZEB座談会「環境にやさしい建築物の紹介」
~都内公共施設初のNearly ZEB認証建築物エコルとごし~
(後編)

ZEB座談会「環境にやさしい建築物の紹介」 ~都内公共施設初のNearly ZEB認証建築エコルとごし~

エコルとごしは、都内公共建築物で初めて「Nearly ZEB」認証を取得した建築物です。品川区としても大きなチャレンジとなった本施設の設置に至るまでの経緯、そしてこれからの展望について、品川区および建築設計者・展示設計者・運営者による座談会形式でお伝えします。

(中編はこちら)

ZEB以外でのエコルとごしの環境にやさしい取り組み

植山:  このエコルとごしは、ZEB以外にも、様々な環境に配慮した取り組みを行っています。そのあたりのご紹介をお願いできるでしょうか。

小林:  大きくは2点あります。
1点目は、内装材や外装材に木材を多く利用している点です。その際、区と交流・連携のある自治体のものを使用し、テーブルなどの家具も、極力そのようにしています。このような取り組みは、区が造る建築物の中でも初めての取り組みです。本施設のキャッチコピーは、「つなぐ つづける つくりだす ~エコなミライへ~」ですが、現在の区との交流、いわゆる「つなぐこと」をこの施設でも「つづける」、そして建設資材というあらたな試みを「つくりだす」 このような視点で、施設の設計においても検討を重ねました。

また、地産地消の観点で、東京都多摩地域の多摩産材も利用しています。品川区も東京都内に位置する自治体の1つとして、地産地消に貢献したいと考えました。品川区内には森林がないため、区民が森林を気軽に実感することがなかなか難しいですが、木材の使用は、豊かな森林の成長につながるものであり、また適切な森林の循環と管理は、地球環境の保全のためには必要不可欠です。本施設で使用した木材利用から、新たな気づきにつなげていければと考えています。

エントランスを入った途端、木のぬくもりあふれる空間につつまれる。

館内の至るところで、内装材・外装材がどこでつくられたものなのかをプレートで提示している。

2点目は、施設を作っている最中にも環境に配慮した点です。今回エコルとごしの工事現場で使う電気は、再生可能エネルギー100%のものを採用しました。また、現場で使用する重機の燃料は、天然ガス由来のGPL燃料を使用しています。この燃料は、通常の軽油と比較すると8~9%、CO2排出を削減できます。このように、施設の工事段階でも環境にやさしい取り組みを行いました。なお、区としても初めての取り組みであり、これらの内容を工事中の仮囲いにも掲示しました。通りかかった区民の皆さんも足を止め見ていただき、一定のPRにはつながったととらえています。今後発注する新築、改築工事においても、同様に環境に配慮した工事を行っていきたいと考えています。

2021年秋、建設中のエコルとごし。

植山:  エコルとごしが環境学習施設なので、工事中もそのような取り組みをされたのでしょうか。

小林:  エコルとごしは、仰るとおり環境に配慮した建築物をつくるということで、ZEBを認証取得しました。建築物を造る過程においても環境配慮の取り組みが何かできないか、様々な検討を行いました。まずは実現可能な取り組みとして、初めて行ったところです。

植山:  受注する事業者さんは、そうした技術力や環境意識をお持ちのところを探されたのでしょうか。

小林:  品川区の公共工事は、施設の規模等にもよりますが、一般的には区内事業者さんが入札に参加され、その中で落札された方が施工することとなります。当初は環境配慮というお話をすると、特別なことをするように思われがちです。ただ、調べていくとハードルは高くないということがわかり、併せて環境負荷軽減への理解も深まってきました。ZEBもそうだと思いますが、知らないから手が出しづらい、知って手が出しやすくなる、ということなのだと思います。

令和4年2月28日、エコルとごし竣工式における区内工事請負事業者・建築設計者・品川区関係者の集合写真

植山:  丹青社さん、展示の観点ではいかがでしょうか。

田中:  環境配慮というと大袈裟かもしれないのですが、今回チャレンジしたことは、サインの板面、展示の解説板面に、再生材を多く採用しました。
具体的には、人々が暮らしの中で出す資源ごみ、例えばプラスチックや衣類、家電製品などを粉砕・圧縮処理等し、板面材として再加工したものです。板面から環境への思いをメッセージとして投げかけるアプローチを図り、情報そのものも時代と共に再編集されて最新のものへと変容していく在り方であることと、何か重ねていくような、そんなデザインの目論見もあります。また、最近はこういった再生材を建材・マテリアルとして活用する取り組みが時代に即して増えてきています。柄や風合いなど、見た目の違いも面白く楽しんでいただけるでしょうし、環境学習施設であるエコルとごしならではということで、ぜひご覧いただきたい点です。

サイン・展示の解説板面で取り入れている再生材については、館内のプレートでも紹介している。

エコルとごしの紹介

植山:  エコルとごしは令和4年5月1日にオープンしました。施設は、冒頭に区からご説明があったとおり、環境について楽しみながら理解を深める施設です。区として、一押しの展示があれば、ご紹介いただければと思います。

河内:  今回の施設では、大型映像装置を使った展示があります。区施設でも、今までにない大きなスケールの展示物です。

田中:  環境学習展示は主には2つのエリアで構成されます。1つは、河内課長からもご紹介のあった大型映像展示です。空間全体に映像を投影し、都市部を表現した壁面と、自然環境を表現した壁面を作り出し、空間全体で環境について考えるきっかけや興味につなげる展示です。壁面に触れると、様々な環境配慮に関する取り組みや情報が出てきて、ゲーム性があり楽んでいただきながらも、しっかり学習効果もある意義のある展示と捉え計画してきました。また、手首に巻いていただくバンドの光が体験と連動するなど、楽しい仕掛けもあります。

3つのステージを通し、環境を守るために大切な3つのチカラを学ぶ「バランスプラネット」。

陸・海や川のいきものたちとのふれあいを楽しめる「いきものタッチ」。

もう1つは常設展示になりますが、こちらは先ほどご紹介した大型映像展示が「空間」を切り口に環境を考えるというテーマに対して、「時間」を切り口に環境を考えるというテーマになっています。
時間とは、1秒・1日・1年などの尺度です。例えば1秒ですと、1秒間で、世界ではどのような環境変化が起こっているのか知ってもらう、という狙いです。1日ですと、1日の生活の中で実は環境に関することに対して取捨選択をしている、例えばごみ捨て一つとっても環境に影響があるんだと知ってもらうものです。他に1年、10年と、色々な時間の単位を切り口に環境に対する「気付き」について、体験を通じて学んでいただき、皆さんの環境行動につなげていただきたいと考えています。

常設展示「トイカケのジカン」全景

1日ゾーンで人気の「品川区のごみ分別」ゲーム。生活に身近なテーマを扱っている。

河内:  1秒間でこんなことが起こっているんだよ、とお子さんたちがお家の方に話をされたりするといいですよね。

田中:  仰るとおりですね。そういった会話のきっかけになることが大事かなと思っています。

品川区における今後の施設づくり・まちづくり

植山:  本施設は、都内自治体に先立ち、公共建築物初となる「Nearly ZEB」認証を取得し、品川区の環境保全に対する強いメッセージを、様々な方に伝えられたのではないかと感じています。少し大きな話になりますが、今後のまちづくりや施設づくりなど、方向性をそれぞれの立場でお話しいただければと思います。

河内:  冒頭で環境基本計画についてご紹介しましたが、区における最上位の行政計画である「品川区長期基本計画」において、10年後の目指す姿として、ZEBやZEHなどの環境に配慮した建物が増えることで、まち全体の環境負荷の低減が実現している、としています。その実現に向け、まずは区が率先した行動として、ZEB認証を本施設で取得しました。そしてその流れを、様々な方へつなげていきたいと考えています。
先ほどご紹介いただいた、施設におけるZEBに関する講座や展示を通じて、ZEBの普及に努めていくとこが、今は重要だと捉えています。

小林:  区有建築物の設計、工事監理を行う所管としましては、脱炭素社会に向けZEBが今後標準化されていくだろうと思っています。また、施設が造られると、通常は50-60年程度使用しますので、先を見越した環境に配慮した施設づくりは、設計当初の段階でしっかり検討する必要があります。現在複数の施設で新築や改築の設計を行っていますが、今年度は新たに3施設でZEB認証を取得する予定です。

先ほど河内課長からもお話があったとおり、まずは区が率先して取り組んでいる姿をお示しするとともに、区民のとって身近な行政施設を通じて、民間の方にも波及させていきたいと考えています。ちょっとした設計の工夫や、既存の建築技術の応用で、ZEBは達成可能です。エコルとごしをはじめ、今後認証取得を予定している区有施設など、様々活用していただくことで、ZEBの良さを知ってもらい、今後の普及に努めて行きたいと考えています。また、これら環境にかかわる建築技術の進展は、非常に早いものがあります。新たな技術の活用などについても、積極的にチャレンジしていきたいと考えています。

工事中は、仮囲いを活用してエコルとごしの環境配慮の取組みを紹介。道行く人々も、しばしば立ち止まって興味深く眺めていた。

白井:  ZEBはそもそも何を目指しているかというと、カーボンニュートラル、いわゆる脱炭素社会の実現という大きな目標の達成です。
そのため、エコルとごしは、公共施設に限らず、様々な施設でも適用できるシステムを利用してZEBが実現できるということを証明し、その認知を広め、その技術を他でも活かせる施設となることが一番重要であると思っています。
特殊な技術ではなく、今ある技術を利用すれば出来るものだと広く知っていただき、私たちでもつくれる、と思ってもらいたいですね。

そしてもう一つ、身近な「住宅」でも「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」という考え方があります。住宅についても、断熱性や遮熱性などの外皮性能を高めれば、普通の家庭の照明・空調器具でも十分な省エネ効果を発揮することが可能です。まずは、今やれる取組みがあるということ、何をやればいいのかということを知ってもらうことが大切だと思います。
エコルとごしでの品川区のチャレンジが、今後、数多くの施設あるいは住宅整備のレベルまで広げていくことが、今後の課題であると考えています。

田中:  これまで当社は施設づくりの観点で、オープンまで大きく関わらせていただきましたが、このエコルとごしがオープンして、いよいよ区民の方々・来館者の方々が主役となり、作っていく施設となります。
施設そのものを、来館者の皆様が多いに活用して頂き、環境について考え、学ぶ機会を少しでも多く増やしていただけたら、今回この施設づくりに関わった立場としては、大変意義があることです。立地的にも品川区の大きなへそ(中心)でもあるエコルとごしを通し、環境を切り口に未来の「これから」を考え、皆の為の活き活きした活動づくりにつなげていくことで、未来の子どもたちへの心のメッセージとなると願い、尽力してまいりました。

エコルとごし3階には、来館者が自由に未来へのメッセージを書き、共有できるコーナーもある。

植山:  運営側の立場として申し上げます。約3年前に、プロポーザルでこのチームを選んでいただきました。弊社は様々な施設で指定管理や管理委託などをやってきましたが、ここまで長く、設計段階から携わることはありませんでした。今日を含め、これまで、施設づくりに携わる皆さんのご苦労や強い思いを感じることが出来ています。そうした皆さんの思いのもとで作り上げてきたものを、施設運営の中で、来館者の皆さんに知ってもらう・喜んでいただくということに努めていかないと、意味をなさないものになってしまいます。そうした、これまでの集大成を担う私たち運営者の責任は重大であると、感じています。

開設前に行った施設ボランティアの面接に、4人くらい10代の方がいらしたので、今回なぜ応募してくださったのか質問をしてみました。
すると、世界的に深刻なこの環境変化から、「これから自分たちが生きていくこの数十年は、自分たちの力でなんとかしないといけないと思った」と発言をされました。保護者の方にもお話を聞いてみると、これまでどちらかという引っ込み思案だったお子さんが、品川区でこうした環境施設が出来たことをきっかけに貢献したいと、強い意志を持って応募してくれたことを知りました。こうした思いを伺って、未来を担う皆さんのためにも、より良い施設にしていかなければいけないと、運営者として強く決意をしているところです。

本日ご参加の皆さまには引き続きご指導いただきながら、関わっていただきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

(株式会社丹青社 オフィスにて)

< 前に戻る(中編)

聞き手

【運営者】

アクティオ株式会社 東日本営業部長
植山 貴司

話し手

【建築設計者】

株式会社松田平田設計 横浜事務所 常務執行役員・横浜事務所長
白井 達雄

【展示設計者】

株式会社丹青社 デザインセンター
プリンシパルクリエイティブディレクター
田中 利岳

【品川区】

品川区企画部施設整備課長
小林 剛

【品川区】

品川区都市環境部環境課長
河内 崇