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解説

■ 都内公共建築物初の「NearlyZEB」認証取得に向けた取り組みについて

品川区立環境学習交流施設エコルとごし(以下本施設)は、平成30年3月に策定した「品川区環境基本計画」において、環境教育・コミュニケーションの充実や、環境保全について日常的に実践する人を育て、時代につなぐ環境都市の実現を目指すこととし、環境を体感して学べる施設として整備するものである。

国は、「エネルギー基本計画」(平成26年4月閣議決定)や「地球温暖化対策計画」(平成28年5月閣議決定)にて、室内外の環境品質を低下させることなく、大幅な省エネルギー削減につながる、ZEBの普及・実現が、目標の1つとして示された。

これを受け、本施設の整備に当たっては、平成30年度より検討を開始した基本計画の当初において、区有施設として初となるZEBの実現を掲げた。検討過程では、ZEBの実現をより確実にすることを目的に、設計委託の発注は、ZEB認証の取得経験のある設計事務所に対し技術提案を求める「プロポーザル方式」により決定することとし、令和元年4月に公募、選定に向けた会議体等を経て、同年7月に設計委託先が決定した。

令和元年度から実施した設計業務においては、初期の段階より①外皮性能②平面形状③ゾーニングなど、省エネ性能のさらなる向上を目的に検討を進めてきた。また本施設に採用される④各種システム・機器類については、従来から世の中にあるものを組み合わせてZEBを実現することとし、今後の設備更新のしやすさも考慮したうえで設計を行った。

なお本施設は、戸越公園の一角に位置し、公園の豊かな緑との調和を第一に、壁面緑化を施し、建築物の高さも極力抑えた計画とした。また本施設の東側に位置する薬医門との連続性を持たせるために、本瓦、漆喰壁などを建材として使用している。内外装には、木材を多用し、その際は、品川区と交流等のある自治体や、地産地消の観点から、都内で森林を持つ多摩地区からのものを採用した。森林の適正な管理を行う上では「育てる・きる・使う・植える」とした一連の循環が温暖化防止には効果的であり、これらの啓発についても本施設で実施する。

①外皮性能 ZEBの判定に使用するWEBプログラム(※1)では、BPI(※2)値は0.47(設計PAL*/基準PAL*)(※3) と、一般建築物と比較して高い外皮性能として計画した。
開口面において採用したガラスは、 Low-E複層ガラスとすることで、熱損失の低減を図っている。
また、開口部以外の外壁は、軽量気泡コンクリート(ALC)および吹付発泡ウレタン(50㎜)とした。
併せて、直接的な省エネ計算には寄与しないが、3階の北面から東面には、壁面緑化を行い、直射光を遮る役割や、緑化による蒸散効果による壁面の温度上昇の低減効果が期待される。 ②平面計画 同じ床面積、同じ高さの短形建築物の中で、外壁面積が最も小さくなる正方形の平面形状とすることで、外的熱負荷を受ける外壁面積の低減を図っている。
また、居室の開口面の多くを公園側(南側)とし、夏至の太陽高度と太陽方位をもとに、3mの深い軒を設けることで、直射光による居室の熱負荷を大幅に低減している。熱負荷の高い夏季西日に関しては、この深い軒があったとしても、直射光の室内への侵入が想定されるため、開口部の床から1.95mに設けたルーバー庇で遮る計画としている。
併せて、地域の卓越風向を考慮したうえで、吹き抜け・階段を利用した換気窓を設け、建物内の温度差で空気を流動させることとしている。 自然換気 による非空調期間を極力設け、運営時の空調負荷低減に期待している。 ③ゾーニング 熱負荷の高い外壁に面する部分には、動線空間や倉庫、機械室などのバックヤード、非空調空間となるトイレなどを配置することで、展示室などの居室エリアを囲い込み、空調空間となる居室の熱負荷低減につなげている。 ④各種システム・機器類 1. 熱源設備 熱源設備は、高効率空冷ヒートポンプチラーに加え、本敷地には豊富な地下水があることから、地中熱ヒートポンプチラーを採用した。
まず、高効率空冷ヒートポンプチラーにおいては、機器に散水を行うことで冷却効率を高める高COP(※4)タイプを採用し、一次エネルギー量の削減を図った。
次に、地中熱ヒートポンプチラーにおいては、密閉回路であるボアホール型を採用し、地中熱交換のポンプ揚程を縮小し、省エネ化を図った。なお設計段階において、地中熱の熱交換試験を先行して実施し、地中熱交換機(深さ100m)の必要本数(6本)を決定した。
なお、各室の設定温湿度は、夏季で28度・相対湿度50% 冬季で19度・相対湿度40%とし、熱源容量の選定を行った。 2. 空調・換気設備 空調設備は、放射空調、空調機、ファンコイルユニットを採用した。
放射空調とは、空気を介さず直接人体との熱交換により冷暖房を行うもので、搬送動力の低減、および平面的な室温のムラが発生しづらい効果があるとされている。1階のコミュニティラウンジ、エントランスホール、3階各展示エリアでは、この放射空調を採用するとともに、中央空調方式による床吹き出し空調を併用している。これらの空調方式により、人が活動する床面近くを集中的に空調する「居住域空調」を行うことで、空調空間が最小限となり、空調負荷の低減が図られる。なお中央空調方式では、潜熱顕熱分離型空調機を採用し、湿度を制御させることにより室温を緩和した中でも快適性を確保する計画とした。また空調ゾーンごとに可変定風量装置により、吹き出し風量を制御する方式とした。併せてCO2制御による外気導入量の適正化を図るなど、一次エネルギー量の削減を図った。なお、部屋の使用時間帯などが不規則となる1階事務室や、2階の各居室、3階多目的ルームは、個別空調を採用している。 3. 雨水利用 雨水利用として、地下ピットに40㎥の雨水貯留槽を設け、加圧給水ポンプを用いてトイレの洗浄水に使用している。
なお、停電時におけるトイレの継続使用を目的に、このポンプを蓄電池系統に組み込んでいる。
4. 照明設備 照明設備は、すべてにおいてLED照明を採用し、一部に人感センサーや照度センサーを用いて消費エネルギーを制御している。
人感センサーは、トイレや倉庫、機械室などに設置し、未使用時の確実な消灯につなげている。
照度センサーは、1階コミュニティラウンジや3階多目的ルームなど、自然採光が期待できる部屋に設置している。
5. 給湯設備 給湯設備は、本施設において湯沸し室や授乳室など使用箇所が限定されていることから、個別給湯方式とし、貯湯式電気温水器を各箇所に設置した。
ZEBの算定上は、環境に配慮した給湯設備も存在するが、本施設における給湯使用量による効果などから、本設備を採用した。
6. 昇降設備 昇降設備は、11人乗り機械式レスエレベーターを一基設置した。速度制御装置や回生電力蓄電システムなど、より省エネにつながる機能もあるが、本施設は、低層の建築物であることから、採用を見送った。
7. 太陽光発電設備 太陽光発電設備は、本施設の屋上に設置し、パネルの取付枚数は、288枚(93.6kW)、1日当たりの発電量は、約215kwhを想定している。
発電した電力は、蓄電池への充電および建物で使用する計画としている。
停電時においては、蓄電池と併用して、1階コミュニティラウンジ、3階多目的ルームの照明やコンセントの一部への供給や、1階トイレや事務室など、停電時においても継続して使用が求められる部屋への必要最低限の供給を行うこととしている。
太陽光パネルの設置角度は、主に南面に3度傾斜させ、パネルの設置面積を可能な限り確保する計画とした。 8. 蓄電設備 本施設の屋上に、 120kWhの蓄電池を設置した。停電時においては、太陽光発電設備と併用して、1階コミュニティラウンジ、3階多目的ルームの照明やコンセントの一部への供給や、1階トイレや事務室など、停電時においても継続して使用が求められる部屋への必要最低限の供給を行うこととしている。なお、停電時は蓄電池+太陽光発電を使用して約72時間電源供給を継続することを想定している。 9. BEMS 1階事務室内に、BEMS(※5)を設置し、エネルギーの使用状況を把握する計画としている。BEMSから得られた収集データは、空調や換気、給湯、照明など部門別に集計を行う。これらのデータから、機器類の運用時における最適な運転につながるよう、調整等を行っていく。 ■ 一次エネルギー消費量予測 WEBプログラムを用いた一次エネルギー消費量設計値は、建物全体で太陽光発電設備を除くと、BEI(※6)は0.41、太陽光発電設備を含めたBEIは0.09となり、BELS認証でNearlyZEBを取得した。
各設備の単位面積当たりの一次エネルギー消費量の内訳は、下記のとおりである。(単位:MJ/㎡・年)
・空調設備
設計値:474.34 基準値:1,218.17(0.39)
・換気設備
設計値:46.06 基準値:98.17(0.47)
・照明設備
設計値:73.91 基準値:242.94(0.30)
・給湯設備
設計値:47.71 基準値:20.67(2.31)
・昇降機
設計値:14.09 基準値:14.09(1.0)
・太陽光発電設備(エネルギー利用効率化設備) 523.50
※1 WEBプログラム: 建築物のエネルギー消費量計算プログラム。
このプログラムに、建物の地域、各部屋の面積や用途などを入力することで、その建物で基準となるエネルギー使用量が計算される。
次に、設備の仕様、各部屋の大きさ、断熱材の種類などの情報を入力することで、その建物の設計エネルギー使用量が計算される。
例えば、(設計エネルギー使用量)÷(基準エネルギー使用量)が0.25以上0.5以下でZEB Ready達成となる。
※2 BPI: 外皮基準の指標により算出される年間熱負荷の基準 ※3 PAL*: 建物の屋内周囲空間の床面積当たりの年間熱負荷 ※4 COP: 冷房機器等の消費電力1kWあたりの冷却・加熱能力を表した値
この数値が大きいほどエネルギー消費効率が良く、省エネ性の高い機器
※5 BEMS: ビル・エネルギー管理システム
室内環境とエネルギー性能の最適化を図るためのビル管理システム
※6 BEL: エネルギー消費性能計算プログラム(WEBプログラム)に基づく、基準建築物と比較した時の設計建築物の一次エネルギー消費量の比率のこと。再生可能エネルギーを除きBEI≦0.50の場合に、ZEBを達成したと判定される。
これらのことにより、空調設備における熱源機器容量の縮減や制御方法、照明設備における設定照度や照度制御、太陽光発電設備(エネルギー利用効率化設備)が、BEI値の向上へ大きく貢献している。